高度経済成長期を経て、世界の先進国の仲間入りをした日本。経済的・物質的な豊かさを享受し、世界GDP(国内総生産)ランキングでも上位を常に張る経済大国になった。
日本は、地球上で最も物質的な豊かさを手にした国の1つだ。
しかし、物質的な豊かさを獲得した令和を生きる我々日本人は、本当に「幸せ」と言える状態なのだろうか。
我々は日々「人生」を営んでいる。
人生を通じて「趣味」「仕事」などの「活動」を行っている。そして多くの人が仕事に従事しているだろう。仕事を通して他者に価値を提供し、その対価として報酬を手にしている。資本主義における報酬とはお金のことであり、資本主義におけるお金とは等価効果の手段であり、交換によって我々は生活を営んでいる。仕事とは生活そのものであり、人生なのだ。
我々は今、確かに仕事を通して物質的な豊かさを手にできている。当然、日本人に「今、幸せですか?」と問うと「幸せだ」と返答するのが普通だろう。しかし、本当に日本人は幸せを獲得できているのだろうか。物質的豊かさと幸せ度に矛盾を覚える現在、その真相を探っていく。
「仕事を通して幸せになれていない」日本企業の実態
2022年に行われた株式会社パーソル総合研究所によるグローバル就業実態・成長意識調査によると、日本は現在の世界経済を牽引している先進諸国と比較しても、仕事に対する幸福度が低いことが明確である。(※図1)
その理由として、日本企業の「権威主義・責任回避」の強さや「職場の相互関係」の低さが関係している。
「権威主義・責任回避」とは、「上層部の意見や指示にはとりあえず従う」「社内では波風を立てない」といった、日本企業の特徴ともいえる組織文化のことだ。物事の決定に自己の判断がない=自己の存在がないのだ。「権威主義・責任回避」が強いほど、仕事への幸福度が下がる関係にある。それとは反対に「職場の相互尊重」がはたらく幸せ実感が高い関係にある。
図の「職場の相互尊重」の低さは、日本人が職場で他者と積極的に関わろうとしないことを示している。
前述の通り職場の相互尊重は「仕事の幸福度」の高さに関係しているのだが、『職場で他者と積極的に関わろうとしない』日本人の姿勢そのものが、仕事の幸福度を下げる原因の一つなのだ。
日本人はなぜ仕事への幸福度が低いのか?その正体は人間の原理原則が関係している
日本人が仕事への幸福度を感じられない理由は、人間の原理原則が関係している。
『職場で他者と積極的に関わろうとしない』日本人の姿勢そのものが、仕事の幸福度を下げる原因の一つと前述したが、まさにここに幸せになれない原理原則が隠されている。そもそも幸せとはなんだろうか。人それぞれ答えはあるだろうが、人間が幸せを感じる際の原理原則は決まっている。
人間が幸せを感じる際に必要なのは以下の3つのホルモンだ。
・ドーパミン:報酬や快楽があったとき
・オキシトシン:繋がりや愛情を感じたとき
・セロトニン:心と体が健康なとき
人間が幸せを感じるためには、この3つのホルモンを満たす必要がある。「セロトニン→オキシトシン→ドーパミン」の順番に満たし、積み上げることで幸せと感じる状態が長続きしやすい。この原理原則を『幸せの三段重理論』と呼ぶ。心と体の健康が全ての幸せの土台であり、人との繋がりがなければいくら成功しても幸せが長続きしないのである。
現代人は成果や報酬によるドーパミン的幸せばかりを求めてしまっている。しかし、ドーパミンには、追加1つあたりの得られる満足値や効用が少なくなる「限界効用の逓減」という特徴がある。ドーパミン的幸せを追い求めれば追い求めるほど得られたときの幸福度は減少し、さらにドーパミン的幸せを求めるループに陥る。これがまさにドーパミン中毒である。年収、ステータス、報酬、役職、高級車、高級時計、など「モノ」が満たされた時に幸福を感じる類は、追えば追うほど「幸せが減っていく」のだ。
現代人はオキシトシンが足りていない。オキシトシンとは、人との深い繋がりや「みんなの役に立っている」という共同体感覚を感じた際に満たされるホルモンである。寛容性が低く異質な他者と積極的に関わろうとしない日本人の姿勢では、人との深い関わりを築くことは困難だ。深い人間関係が構築できていないためオキシトシン的幸せを得られないのである。
『職場で他者と積極的に関わろうとしない』日本人の姿勢そのものが、仕事の幸福度を下げる原因の一つと前述したが、人間の原理原則として幸福度を上げるために重要なオキシトシン的幸せを、自ら積極的に避けていく姿勢を取り続けているのだ。
オキシトシンはドーパミンと異なり限界効用は低減しない。オキシトシンを追加すればするだけ幸福は積み上がっていくのである。
また、オキシトシンと同等に自分の個別欲求(Want to)を満たせていないと、仕事の幸福を獲得できない。個別欲求(Want to)とは、個人特有の欲求の1つであり、やっているだけで心が満たされる行動である。個別欲求(Want to)に根差した動作行動が満たされる業務を行っている時、仕事の報酬は仕事になっていく。仕事の報酬は仕事ということはつまり、役職、報酬、ポジションを獲得することに満足があるのではなく、その仕事をしているだけで満たされてしまう、ということである。
仕事の動作行動が個別欲求(Want to)の動作行動と一致している時にはじめてその現象が人間に発生する。逆にいえば、個別欲求(Want to)由来の業務を行えていないことも、仕事を通して幸せになれない理由である。
「仕事を通して幸せになる」になる方法
以上を通じて、仕事を通して幸せになるには、3つのホルモン「セロトニン、オキシトシン、ドーパミン」が全て満ちている状態で、個別欲求に根差した仕事をすることが必要である。3つのホルモンのうち、特にオキシトシンを満たすことを意識したい。
オキシトシンと個別欲求(Want to)を満たし、仕事を通して幸せになるには下記の3つが必要である。
1.深い人間関係が構築できる人間になる
2.人の役に立つという観点で仕事の概念を変える
3.仕事をWant to由来に書き換える
以上の3つをそれぞれ詳細に解説していく。
1.深い人間関係が構築できる人間となる
仕事のなかで深い人間関係が構築できると、仕事を通して幸せを感じられるようになる。人との良好な繋がりや共同体感覚を感じると、オキシトシンが満たされ幸福を感じられるからだ。
仕事で深い人間関係を構築するには、ビリーフから解放されることが重要である。ビリーフとは、0~16歳までに作られる「思い込み」のことである。「人に弱みを見せられない」「成果を出せなければ価値がない」「人に興味がない」「人の目を見て話せない」「カッコつける」「強がる」「プライドが高く自分を守る」「いつも周りより劣っている」「目上の人が怖い」「人に深く関わることが嫌い」など無意識の思考を、自分の中の思い込みとして作り上げる。これらの思い込みが深い人間関係の構築を阻害している。ありのままの自分と相手を受け入れて、強固な信頼関係を築けば、深い人間関係を構築することができ、仕事を通して幸福を感じるはずだ。
株式会社ミズカラではこのビリーフを認識するためのサービス「Reboost」を実施している。Reboostを受けて、ありのままの自分を受け入れた人の声は以下の通りだ。
2.人の役に立つという観点で仕事の概念を変える
仕事を通して幸せになりたいのなら、お金を稼ぐことや成果を求めることも重要であるが、「人の役に立つ=オキシトシン的幸せ」を追求することが重要である。深い人間関係を築きながら『社内/社外問わず人の役に立つ』という実感を覚えながら仕事をすることで、オキシトシンが分泌され幸福を感じられるからだ。
それを無視し多くの人は「ドーパミンの奴隷」となる。人の役に立つ=オキシトシン的仕事ではなく、お金、役職、ステータスを満たすだけのドーパミン的仕事である。しかし、多くの人が人の役に立つことを追求せず、お金を稼ぐことや成果だけを追求する「ドーパミンの奴隷」となる。そしてお金や成果だけを追い求め続ける結果「薄い人間関係」が構築される。より一層オキシトシンが満たされない状況を、気付かぬうちに強化し続ける選択を取っているのだ。
もちろん年収、役職も重要である。それを踏まえ、人の役に立つことを意識して仕事ができれば、お金や成果、昇進などの成果と相まって、オキシトシンとドーパミンのどちらも得られ、より豊かな人生になるのである。
3.仕事を個別欲求(Want to)由来に書き換える
個別欲求(Want to)とは、無意識でやってしまう動作行動であり、やるだけで満たされてしまう行動のことである。そのため、個別欲求(Want to)を満たす仕事ができれば、仕事の動作行動そのものが満たされるものとなり、お金、役職、成果に依存しない幸福に繋がる。そのうえで「人の役に立つ」実感を手にすることで、キシトシンも満たされていく。
自分の体がどんなことに反応するのかを観察し、個別欲求(Want to)を正しく認識することで幸福に近づくのだ。個別欲求(Want to)を実現できる仕事こそが天職であり、その仕事を通して幸福を得られるのである。
仕事への幸福度が人生の幸福度へ直結、気づいた今こそ行動する時
この記事では、日本人が仕事で幸せを感じられていない理由や、その解決方法を解説した。
ありのままの自分で深い人間関係を構築することや、自分の個別欲求(Want to)を正しく認識すること、仕事は人の役に立つことであり人の役に立っている実感こそ幸福と理解することは、仕事を通して幸せになるためには必ず必要なことだ。
何をどうすればよいかわからない人は、企業が提供するキャリア関係のサービスを活用してみてはどうだろうか。キャリアの専門家との対話を通して、本当のあなたが見えてくるはずだ。人生の大半の時間を使う仕事において幸せを感じられなければ、人生全体を通してみても幸せとはいえない。仕事を通して幸せになる力は、これからの日本人にとってより必要になっていくだろう。